【パワハラの分類⑤】過小な要求

相手の能力を無視するハラスメント

パワーハラスメント(パワハラ)には大きく6つに分類されています。

パワハラと言えば、殴る蹴るといった行為を想像される方が多いですが、それだけではありません。そもそもパワハラは、職場での権力関係を背景にした嫌がらせや過度な圧力を指します。そのため、暴力行為以外にも精神的な嫌がらせ、暴言等もパワハラに該当することがあります。「受け取る側がどう感じるか」が重要なポイントです。

今回は、6つの分類の内の「過少な要求」について、解説します。

過小な要求

相手が絶対に出来ない仕事を任せるといった「過大な要求」に加えて、相手の能力を評価しない「過小な要求」もパワハラに含まれます。業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えないなどが該当します。
もちろん、入社したばかりの新人や能力が不足している社員に対して、簡単な仕事しか渡せない場合もあります。
合理的に妥当な割り振りであれば、ハラスメントではありません。簡単な仕事だからといって、「過小な要求」に該当するわけではありませんので、どうしてそのような仕事を割り振られたのか、意図を確認することも大切です。

ただし、悪意を持ってわざと簡単な仕事ばかり割り振る行為は、ハラスメントに該当する為、注意が必要です。

過小な要求は、従業員のやる気を著しく低下させ、組織全体のモチベーション低下にもつながります。

一方で、「上司として一度ミスをしてしまった部下に対して仕事を任せることが怖い」など、悪意ではなく、単純な責任に対する恐れから発生することもあります。責任を負う立場であるからこそ、仕事の分配に慎重になってしまう心情は理解できますが、上席者として、部下の能力を見極めることも重要な役割の内です。

ハラスメント防止だけでなくマネジメント研修など、上席者としての能力アップを行う必要があります。

事例

➀担当業務で些細なミスの後、何の指導もなく「しなくてよい」と業務から外された

中古車販売業に務める社員Aは、一般消費者担当として店頭販売員を行っていました。

ある時、複数台の購入をしたい個人客が訪れ、社員Aが担当となりました。交渉の結果、個人での購入ではなく法人として購入するとのこと。通常であれば、法人担当と変わるのですが、店長から業務の幅を広げるために継続して社員Aが担当し、サポートとして、法人担当のリーダーがつく二人体制で行うことになりました。交渉は順調に進み、無事契約まで完了しました。

しかし、契約後の車両の引き渡しの段階で、社員Aは契約金額に不備があることに気が付きました。自身の確認不足が原因であることがわかり、急いで顧客に説明を行いました。顧客は笑って許して下さり、再契約を行い、無事に引き渡しまで完了しました。

リーダーへは事の経緯を話していたため、次回から気をつければ良いと言っていただきましたが、店長からは「些細なことであっても、金額のミスは許されない」と、厳しい指導を受けることになりました。

この出来事以降、社員Aは一度も法人担当の業務に就かせてもらえなくなったばかりか、以前から対応している一般消費者との交渉に際しても、担当を外されることが増えました。社員Aは店長に対して「ミスはないように気を付けるので仕事を任せてほしい」とお願いしましたが、店長からは「ミスをされると困るから、もう何もしなくていい」と言われました。

それから社員Aは2年間勤務しましたが、状況は改善されず、仕事へのモチベーションがなくなった為、転職することにしました。

➁退職させるため、誰でも遂行可能な業務をさせられた

Bさんは、都内の人材派遣業の総務部に経理担当として中途入社しました。入社前の社長からの説明では、「現在の経理はどんぶり勘定に近いため、どんどん改善していってほしい」と言われており、前職で培った経験を活かせるとBさんは張り切っていました。

Bさんが実際に業務に取り掛かると、従来のやり方では対応できず新しい方法に改善しなければならないことが多いことがわかりました。Bさんが入社するまでの経理業務の担当は総務部長が行っていたため、新しい方法へ変えていくことに対して許可を取りに交渉を行う事にしました。しかし、総務部長は「従来のやり方から新しい方法へ変更されると自分が業務内容を把握できなくなるため、変えないでほしい」と拒否されました。
Bさんは仕方なく社長に相談すると、社長自ら総務部長に話を通してくださり、新しい方法へ変更することができるようになりました。

しかし、それからというものの、総務部長はBさんに対して、掃除やコピー、シュレッダー、電話応対など経理とは関係のない仕事の担当につかせ、本来の業務ができない状態にしていきました。

Bさんは、いじめを受けているように感じ社長にも再度相談しましたが、状況は改善されなかった為、退職することにしました。

「過少な要求」を防ぐためにはどうすれば良いか

被害者側の対策

  • 証拠を保全する
    過小な要求は、口頭で行われる場合が多く証拠として残りにくいことが多いです。証拠となるもの(例:ボイスレコーダー、画像、動画など)を保全しましょう。また、具体的な書面にて業務指示をもらい、証拠として保全することも一つの手段です。
  • 信頼できる人に相談、報告する
    信頼できる同僚、上司、またはハラスメント相談窓口に報告してください。また、社内では対応が難しい場合は、友人や家族、外部支援機関を利用しましょう。特に過小な要求は、本人ではなく周囲が気が付くこともあります。気が付いた時にはすぐに相談、報告を行いましょう。
  • メンタルヘルスのサポートを利用する
    ハラスメントによる恐怖が持続する場合は、心理カウンセラーやメンタルヘルスの専門家からのサポートを受けることを検討してください。精神的苦痛は、時間だけでなく時に外部からのサポートが必要になることがあります。無理をせず、医療機関を利用してください。

加害者側の対策

  • 自己反省と認識の向上
    加害者は自身の行動がパワハラに該当すると認識していない場合が多いです。自分の行動が他人にどのような影響を及ぼしているかを理解し、パワハラの定義や事例について学び、自己の行動を振り返ります。また、パワハラ行動はしばしばストレスが原因で引き起こされます。ストレスのサインを早期に認識し、適切なストレス解消法(運動、趣味、休息など)を見つけることが重要です。
  • コミュニケーションスキルの習得
    効果的なコミュニケーション方法を学び、批判やフィードバックを伝える際にも、相手の尊厳を守る言葉遣いや態度を心掛けます。他人の立場に立って物事を考える訓練をすることで、相手の感情や立場を理解し、共感する能力を高めます。
  • マネジメント力の向上
    マネジメント力が低いために、部下との適切な指導、指示ができずハラスメントにつながることがあります。部下指導や指示、リーダーシップなど、上席者として求められるマネジメント力の向上が大切です。

会社としての対策

  • 教育と研修の機会の提供
    全ての従業員に対して、パワハラの定義、事例、影響についての教育を実施しましょう。リーダーシップ研修を含め、上司や管理職に対しては、適切なコミュニケーション方法やチーム管理のスキル向上に焦点を当てた研修を提供しましょう。内部だけでなく外部機関を利用し最新の情報を取得することも大切です。
  • 意思決定者による明確なガイドラインとポリシーの提示
    経営層や管理職が職場におけるパワハラに対する姿勢を明確にし、具体的な行動規範やポリシーを策定・公開しましょう。パワハラが発覚した場合の報告ルートや処理フロー、加害者に対しての懲戒処分など具体的に定めていく必要があります。
    従業員が働きやすいように、透明性の高いガイドラインの策定を行う事が重要です。
  • ハラスメント相談窓口を設置
    被害者だけでなく、加害者に対しても必要なサポートやカウンセリングを提供できるようにハラスメント相談窓口を設置しましょう。またパワハラの兆候や報告があった場合は、迅速かつ公正に調査を行い、適切な対応をとりましょう。加害者に対しては、カウンセリングの提供、再教育プログラムへの参加を促しましょう。自社内だけでなく、外部機関を利用することも大切です。

まとめ

パワハラのうち「過少な要求」は、上司のスキルが原因となっている場合が多いです。また、業務指示であるがゆえに、上司に対して注意することができず、気が付けば会社全体でハラスメント行為を容認していたケースもあります。事前に防止できるようにハラスメント行為が見受けられた場合は、ハラスメント窓口など適した機関に相談を行ってください。加えて意識向上のため会社として定期的なハラスメント教育、マネジメント研修を通して防止していくことをお勧めします。

自社内で行う事も必要ですが、最新のハラスメントの情報を得るために外部研修を受講することもお勧めします。

当社では、ハラスメントに関する研修を実施しております。心当たりのある方は、ぜひ一度当社の研修を受講してください。研修依頼は、お問合せフォームからご連絡ください。