【パワハラの分類③】人間関係からの切り離し
社会人における陰湿な「いじめ」
目次
パワーハラスメント(パワハラ)には大きく6つに分類されています。
パワハラと言えば、殴る蹴るといった行為を想像される方が多いですが、それだけではありません。そもそもパワハラは、職場での権力関係を背景にした嫌がらせや過度な圧力を指します。そのため、暴力行為以外にも精神的な嫌がらせ、暴言等もパワハラに該当することがあります。「受け取る側がどう感じるか」が重要なポイントです。
今回は、6つの分類の内の「人間関係からの切り離し」について、解説します。
人間関係からの切り離し
自身が苦手とする相手を隔離する、無視をする、など人間関係を過度に切り離す仲間外れを目的とした行為が該当します。「ちょっとした嫌がらせ」や「少し懲らしめてやりたかった」など、悪意を持って行われることが多いです。
学生同士で行われる「いじめ行為」と類似する点が多いですが、「会社の評価を用いる」や「上司を利用する」など、より陰湿な行為が行われている場合があります。
相手の問いかけに対して生返事を返す軽度なものから、いない者として扱う、業務に関わらせないなど、相手の存在を否定する重度な行動が見られます。
また、これらの行為は、知らないうちに加担していることもあります。
特に挨拶を無視する行為は多いですが、「無視しているつもりではなく、仕事に集中していて気が付かなかった」など悪気が無く行ってしまっている場合もあります。
意図せず相手を傷つけている場合もありますので、自身の言動を振り返ることが大切です。
事例
➀毎回、自分だけ懇親会に呼ばれず仲間はずれにされた
社員Aは工業機械を扱う中規模商社で営業部に所属し、営業事務として営業部全員の経費精算を担当していました。日本全国を商圏としているため、交通費の経費精算が多く、処理に時間がかかることが常習化していました。
状況改善に向けて社員全体に対して期限を守る様に定期的に注意喚起を行っていました。特に期限を守らない上司にあたる営業部課長に対しては個別に注意を行っていました。
しかし、注意を不満に感じ取った営業部課長から社員Aに対する悪口が行われるようになりました。社員Aは特に気にせず業務に取組んでいたためか、段々と悪口はエスカレートしていき、根も葉もない噂もたち始めました。気づくと同僚からも疎ましい存在として扱われるようになっていました。
ある時、社員Aがトイレ休憩に席を立ちトイレに向かうと、同僚たちが懇親会について話をしている声が聞こえてきました。それは既に実施した営業部全体の懇親会であり、社員Aは呼ばれていませんでした。
社員Aはトイレ休憩後、仲の良い同僚Bに確認すると、過去に何度も懇親会は行われていることがわかりました。同僚Bは営業課長から「社員Aは、忙しくて来ない」と聞かされていたことがわかりました。
社員Aは、懇親会に参加したいわけではありませんでしたが、会社のために思って行動していたことが周りに理解されておらず、まるでいじめのような扱いを受けていたことにショックを受け、退職することにしました。
➁挨拶をしても、複数の社員からずっと無視をされる
大手自動車メーカーの子会社に新卒採用された新入社員Bは、第一志望の企業に入社することができたことが嬉しく、やる気に満ち溢れていました。新入社員研修も無事に終わり、自身の配属先も決まり、働く事を楽しみにしていました。
配属初日、社員Bは始業前に配属先に出社し、自身の席に着く前に上司に向かって挨拶を行いましたが返してくれませんでした。
どうすれば良いか分からず、自席の前で立ちすくんでいると、上司から「早く座って仕事しろ」と言われました。急いで準備を終わらせ、何をすればいいか上司に確認をするも、「忙しいから、ちょっと待ってろ」としばらく放置されました。
社員Bは、自身の配属部署が忙しいことはわかっていましたが、話しかけられず、また話しかけても無視される、邪険に扱われる状況に苦痛を感じました。この状況は初日だけでなく3か月ほど続いたため、社員Bは無視される恐怖で、出社できなくなりました。
すぐに上司に対してハラスメント担当から状況の確認が入りましたが、上司は「思い当たる節はない」と答えました。
また社員Bが無視されると話していたことを確認するも
「挨拶は聞こえていたと思う。別に無視したつもりはない。指示も業務に必要な指示は行っており問題ないと思っていた。仕事にも真面目に取り組んでいるため、自身としては評価していた」と悪気はなく、自身の行為がハラスメントに該当するとは認識していませんでした。
社員Bは、上司の話した内容から復帰することは困難であると判断し、退職することになりました。
「人間関係からの切り離し」を防ぐためにはどうすれば良いか
被害者側の対策
- 証拠を保全する
無視や仲間外れは、物理的な証拠として残りにくいことが多いです。証拠となるもの(例:ボイスレコーダー、画像、動画など)を確保しておくことが大切です。 - 信頼できる人に相談、報告する
信頼できる同僚、上司、またはハラスメント相談窓口に報告してください。また、社内では対応が難しい場合は、友人や家族、外部支援機関を利用しましょう。特に人間関係からの切り離し行為は、どんどん被害が拡大していきますので、気が付いた時にはすぐに相談、報告を行いましょう。 - メンタルヘルスのサポートを利用する
ハラスメントによる恐怖が持続する場合は、心理カウンセラーやメンタルヘルスの専門家からのサポートを受けることを検討してください。精神的苦痛は、時間だけでなく時に外部からのサポートが必要になることがあります。無理をせず、医療機関を利用してください。
加害者側の対策
- 自己反省と認識の向上
加害者は自身の行動がパワハラに該当すると認識していない場合が多いです。自分の行動が他人にどのような影響を及ぼしているかを理解し、パワハラの定義や事例について学び、自己の行動を振り返ります。また、パワハラ行動はしばしばストレスが原因で引き起こされます。ストレスのサインを早期に認識し、適切なストレス解消法(運動、趣味、休息など)を見つけることが重要です。 - コミュニケーションスキルの習得
効果的なコミュニケーション方法を学び、批判やフィードバックを伝える際にも、相手の尊厳を守る言葉遣いや態度を心掛けます。他人の立場に立って物事を考える訓練をすることで、相手の感情や立場を理解し、共感する能力を高めます。 - マネジメント力の向上
マネジメント力が低いために、部下との適切な指導、指示ができずハラスメントにつながることがあります。部下指導や指示、リーダーシップなど、上席者として求められるマネジメント力の向上が大切です。
会社としての対策
- 教育と研修の機会の提供
全ての従業員に対して、パワハラの定義、事例、影響についての教育を実施しましょう。リーダーシップ研修を含め、上司や管理職に対しては、適切なコミュニケーション方法やチーム管理のスキル向上に焦点を当てた研修を提供しましょう。内部だけでなく外部機関を利用し最新の情報を取得することも大切です。 - 意思決定者による明確なガイドラインとポリシーの提示
経営層や管理職が職場におけるパワハラに対する姿勢を明確にし、具体的な行動規範やポリシーを策定・公開しましょう。パワハラが発覚した場合の報告ルートや処理フロー、加害者に対しての懲戒処分など具体的に定めていく必要があります。
従業員が働きやすいように、透明性の高いガイドラインの策定を行う事が重要です。 - ハラスメント相談窓口を設置
被害者だけでなく、加害者に対しても必要なサポートやカウンセリングを提供できるようにハラスメント相談窓口を設置しましょう。またパワハラの兆候や報告があった場合は、迅速かつ公正に調査を行い、適切な対応をとりましょう。加害者に対しては、カウンセリングの提供、再教育プログラムへの参加を促しましょう。自社内だけでなく、外部機関を利用することも大切です。
まとめ
パワハラのうち「人間関係からの切り離し」は、知らず知らずのうちに自分がターゲットになっているだけでなく、加害者側にも回ってしまう可能性があるハラスメントです。また、最初のきっかけは1人の上司からでも、気が付けば会社全体でハラスメント行為を容認していたケースもあります。事前に防止できるように些細な無視や仲間外れが見受けられた場合は、積極的に止めに入ることが大切です。しかし、次のターゲットが注意した社員に代わってしまう場合も考えられますので、会社として定期的な教育、研修を通して防止していくことをお勧めします。
自社内で行う事も必要ですが、最新のハラスメントの情報を得るために外部研修を受講することもお勧めします。
当社では、ハラスメントに関する研修を実施しております。心当たりのある方は、ぜひ一度当社の研修を受講してください。研修依頼は、お問合せフォームからご連絡ください。