【パワハラの分類④】過大な要求
絶対に達成不可能な要求を突きつける
目次
パワーハラスメント(パワハラ)には大きく6つに分類されています。
パワハラと言えば、殴る蹴るといった行為を想像される方が多いですが、それだけではありません。そもそもパワハラは、職場での権力関係を背景にした嫌がらせや過度な圧力を指します。そのため、暴力行為以外にも精神的な嫌がらせ、暴言等もパワハラに該当することがあります。「受け取る側がどう感じるか」が重要なポイントです。
今回は、6つの分類の内の「過大な要求」について、解説します。
過大な要求
能力や状況を考慮せずに達成不可能な業務目標を設定する過大な要求が該当します。人の成長には、少し難易度の高い課題や問題に取り組むことが大切です。しかし、明らかに達成不可能な課題の達成や与えられた期間ではできない量をさせることはパワハラに該当します。また、業務に関係のない雑用を強要することも過大な要求に含まれます。
過大な要求は、悪意をもって行われる場合が多いですが、時に本当にできると判断し結果的に過大な要求となってしまう場合もあります。それは、上司としてマネジメント能力が不足している故に起こっている可能性があります。
ハラスメント防止だけでなくマネジメント研修など、上席者としての能力アップが必要です。
事例
➀一人では無理だとわかっている仕事を強要された。
IT企業に務める社員Aは、プログラマーとしてとある企業の基幹システムの改修業務に取組んでいました。この企業のシステムは、30年以上前に組まれたもので新たなプログラムへと移行する必要があり、古い言語と新しい言語を知る両方のプログラマーで構成されたプロジェクトチームが担当していました。社員Aも、チームの一員として新しい言語側の担当として配置されていました。
ある時、古い言語を担当するメンバーが病気により退職することになりました。チームリーダーはすぐに補充要員を入れると言っていましたが、人手不足の影響で新メンバーを用意することが難しい状況でした。
そこでチームリーダーは社員Aに対して、退職者が行っていた業務を担当するように命じました。しかし、社員Aは一度も今回の古い言語を扱ったことが無く、期限が迫る中、自分では担当できないと伝えました。しかし、チームリーダーは人手不足と社員Aが若手であることを理由に、勉強して覚えればよいと強制的に担当者に任命しました。
社員Aは、抗議しようと考えましたが、既に取引先や自社の社長にまで話が通っており、引き受けざるを得ない状況に追い込まれました。社員Aは残業だけでなく休日返上で必死に調べ、何とか業務を遂行することはできました。しかし、体調を崩ししばらく入院を余儀なくされました。
退院後、チームリーダーから社員Aに対して謝罪はなく、むしろ「良い経験ができただろう」と肯定的に捉えられていることを知り、退職することにしました。
➁就業間際に過大な仕事を押し付けられた
飲食製造業の総務部に務める社員Bは趣味を大切にしており、なるべく残業をしない様に心がけ毎日定時に帰宅しています。この職場に入社した理由も、ほとんど残業がないことが決め手でした。業務自体はしっかりと行っていたため、周囲からも認められていました。
ある時、総務部の部長の昇進が決まり、製造部から新たな部長が配属されました。製造部は、残業が他の部署に比べて多く、新部長も残業をすることが当たり前と捉えていました。そのため、社員Bが毎日定時で帰宅することが信じられない様子で、帰る際にいつも「もう帰るのか」と小言を言ってきました。社員Bは、業務時間内で自身の仕事はこなしていたため、特に気にせず帰宅していました。
しかし、新部長の言動はエスカレートしていきました。わざと業務時間内に業務を与えず、就業間近になって業務指示を出したり、時間がかかる仕事を社員Bひとりに押し付けたり、定時に帰れないような業務指示を出すようになりました。社員Bは耐えられず、以前の部長に相談し事件が発覚しました。
ハラスメント担当者が、新部長に確認をしたところ
「指示は業務に必要なものであり問題ないと思っていた。嫌がらせのつもりはない。」と悪気はなく、自身の行為がハラスメントに該当するとは認識していませんでした。
このままでは改善しないと判断したハラスメント担当者は、社員Bを残業の少ない部署へ配置換えを打診し、新部長にはハラスメントに関する個別カウンセリングを受講させることにしました。
「過大な要求」を防ぐためにはどうすれば良いか
被害者側の対策
- 証拠を保全する
過大な要求は、口頭で行われる場合が多く証拠として残りにくいことが多いです。証拠となるもの(例:ボイスレコーダー、画像、動画など)を保全しましょう。また、具体的な書面にて業務指示をもらい、証拠として保全することも一つの手段です。 - 信頼できる人に相談、報告する
信頼できる同僚、上司、またはハラスメント相談窓口に報告してください。また、社内では対応が難しい場合は、友人や家族、外部支援機関を利用しましょう。特に人間関係からの切り離し行為は、どんどん被害が拡大していきますので、気が付いた時にはすぐに相談、報告を行いましょう。 - メンタルヘルスのサポートを利用する
ハラスメントによる恐怖が持続する場合は、心理カウンセラーやメンタルヘルスの専門家からのサポートを受けることを検討してください。精神的苦痛は、時間だけでなく時に外部からのサポートが必要になることがあります。無理をせず、医療機関を利用してください。
加害者側の対策
- 自己反省と認識の向上
加害者は自身の行動がパワハラに該当すると認識していない場合が多いです。自分の行動が他人にどのような影響を及ぼしているかを理解し、パワハラの定義や事例について学び、自己の行動を振り返ります。また、パワハラ行動はしばしばストレスが原因で引き起こされます。ストレスのサインを早期に認識し、適切なストレス解消法(運動、趣味、休息など)を見つけることが重要です。 - コミュニケーションスキルの習得
効果的なコミュニケーション方法を学び、批判やフィードバックを伝える際にも、相手の尊厳を守る言葉遣いや態度を心掛けます。他人の立場に立って物事を考える訓練をすることで、相手の感情や立場を理解し、共感する能力を高めます。 - マネジメント力の向上
マネジメント力が低いために、部下との適切な指導、指示ができずハラスメントにつながることがあります。部下指導や指示、リーダーシップなど、上席者として求められるマネジメント力の向上が大切です。
会社としての対策
- 教育と研修の機会の提供
全ての従業員に対して、パワハラの定義、事例、影響についての教育を実施しましょう。リーダーシップ研修を含め、上司や管理職に対しては、適切なコミュニケーション方法やチーム管理のスキル向上に焦点を当てた研修を提供しましょう。内部だけでなく外部機関を利用し最新の情報を取得することも大切です。 - 意思決定者による明確なガイドラインとポリシーの提示
経営層や管理職が職場におけるパワハラに対する姿勢を明確にし、具体的な行動規範やポリシーを策定・公開しましょう。パワハラが発覚した場合の報告ルートや処理フロー、加害者に対しての懲戒処分など具体的に定めていく必要があります。
従業員が働きやすいように、透明性の高いガイドラインの策定を行う事が重要です。 - ハラスメント相談窓口を設置
被害者だけでなく、加害者に対しても必要なサポートやカウンセリングを提供できるようにハラスメント相談窓口を設置しましょう。またパワハラの兆候や報告があった場合は、迅速かつ公正に調査を行い、適切な対応をとりましょう。加害者に対しては、カウンセリングの提供、再教育プログラムへの参加を促しましょう。自社内だけでなく、外部機関を利用することも大切です。
まとめ
パワハラのうち「過大な要求」は、上司のスキルが原因となっている場合が多いです。また、業務指示であるがゆえに、上司に対して注意することができず、気が付けば会社全体でハラスメント行為を容認していたケースもあります。事前に防止できるようにハラスメント行為が見受けられた場合は、ハラスメント窓口など適した機関に相談を行ってください。加えて意識向上のため会社として定期的なハラスメント教育、マネジメント研修を通して防止していくことをお勧めします。
自社内で行う事も必要ですが、最新のハラスメントの情報を得るために外部研修を受講することもお勧めします。
当社では、ハラスメントに関する研修を実施しております。心当たりのある方は、ぜひ一度当社の研修を受講してください。研修依頼は、お問合せフォームからご連絡ください。